インフルエンザに対するワクチン効果の検討

 

新宮市医師会           

                                         会長        谷地 雅弘

                                         学校医部会長  眞砂 州宏

 

【はじめに】

 インフルエンザは集団生活の中で流行する疾患であり、学校や幼稚園、保育所(園)、こども園において、インフルエンザ対策は重要な課題となる。新宮市医師会学校医部会では、ワクチン接種の普及を流行抑制の重要な手段として位置付けて、インフルエンザ罹患後の経過を調査するとともに、幼稚園・保育園、小中学校を対象にワクチン接種状況と罹患状況を調査し、インフルエンザワクチンの効果を検討した。

 

【接種率と罹患率】

新宮市医師会学校医部会が、平成27年度(2015-2016年シーズン)から新宮市教育委員会、新宮市子育て推進課の協力のもとで、新宮市立小中学校および新宮市内の幼稚園・保育所(園)・こども園を対象に接種率と罹患率調査を実施している。なお、コロナ禍の令和2年度、令和3年度はインフルエンザの流行がなかったため、接種率調査のみとなった。


接種率の推移を図1に示す。令和2年度は、新型コロナ対策の一環でワクチン助成があり、接種率の向上がみられたが、その後はコロナ禍で流行がなく、接種率が低下し、令和4年度は過去最低となった。

 

       



型別罹患率を図2に示す。A型は、毎年流行がみられたが、特に平成28年度と平成30年度の流行規模が大きかった。B型は、平成27年度と平成29年度で流行がみられた。平成29年度は、A型、B型ともに流行がみられ、インフルエンザ全体として大流行となった。

 

 


図3にA型接種別罹患率、図4にB型接種別罹患率を示す。★印は、接種群の罹患率が、非接種群よりも高かった年度を示す。中学生で目立った。小学生では令和1年度のA型のみで、園児では、A型、B型とも、すべて非接種群の罹患率が高かった。

 


 

   

ワクチン有効率を図5に示す。ワクチン有効率は、ワクチンを接種せずに罹患した方が、ワクチンを接種していれば、どれだけ発症を予防できたかを推定する指標で、次の計算式で算出する。

  ワクチン有効率=(非接種群の罹患率-接種群の罹患率)/非接種群の罹患率

なお、計算上マイナスとなった場合は、有効率0.0%とした。令和2年度、令和3年度は流行がなかったため、ワクチン有効率は算出していない。

平成27年度~令和1年度の小中学生のA型に対するワクチン有効率が低かったが、令和4年度は概ね良好だった。B型に関しては、小学生では概ね良好だったが、中学生では低かった。園児では、A型、B型ともに、有効率は良好であった。

 

    

 

 

【罹患後経過】

新宮市医師会学校医部会では、平成27年度から令和1年度までの5年間、インフルエンザ罹患後の経過調査を実施した。対象は、新宮市内の医療機関を受診した中学生以下の小児で、新宮市以外の小児も含まれる。また、乳幼児は未就園児も含まれる。令和4年度に関しては、新宮市教育委員会と共同で、新宮市立小中学校に提出された登校登園連絡票を分析した。

 

1. 解熱日

 発熱に関しては、37.5 度未満に下がり、24時間以上続いた場合に「解熱した」とし、最初に37.5度未満となった日を「解熱日」とした。二峰性発熱がみられた場合は、最後の発熱が解熱した日を「解熱日」とした。接種別に解熱日の平均を図6に示す。解熱日は、発症日を0日目として、何日目かを示す。★印は、接種群が非接種群よりも遅かった年度を示す。

 A型に関しては、概ね接種群での解熱が早く、ワクチンの効果があったと考えられた。B型に関しては、平成27年度ではワクチンの効果がみられなかったが、平成29年度ではワクチンの効果があったと考えられた。

 

      

2. 二峰性発熱の有無

一旦「解熱した」後、再度37.5度以上に発熱した場合を二峰性発熱とした。二峰性発熱がみられた場合は、最後に解熱した日を「解熱日」とするため、登校登園が可能となる日が遅れる可能性がある。接種別に二峰性発熱の頻度を図7に示す。★印は、接種群が非接種群よりも頻度が高かった年度を示す。

小学生では、A型、B型とも接種群での頻度が低くかった。中学生では、平成29年度B型以外では接種群での頻度が低かった。とくにA型では接種群で二峰性発熱はみられなかった。これに対し、乳幼児では、平成27年度A型、平成28年度A型以外は接種群での頻度が高かった。

    

3. 6日目に登校登園ができなかった割合

 インフルエンザの出席停止基準は、「発症した後5日を経過し、かつ解熱した後2日(乳幼児は3日)を経過するまで」で、発症した日を0日目として、最短で登校登園できるのは、6日目である。6日目に登校登園できなかった割合を図8に示す。乳幼児では、解熱した後も3日間登園できないため、6日目に登園できなかった割合が高くなっている。

 小学生では、平成27年度A型と平成27年度B型以外は、接種群での割合が低かった。中学生では、令和1年度A型と平成29年度型以外は、接種群での割合が低かった。乳幼児では、平成28年度A型、令和1年度A型、平成29年度B型以外は、接種群での割合が低かった。全体的にみても、接種群での割合が低く、ワクチンの効果と考えられた。

 

  

 

【ワクチンの効果】

インフルエンザワクチンに期待する効果は、①感染・発症予防、②重症化予防、③流行抑制である。残念ながら現在のインフルエンザワクチンでは、免疫が確実に獲得できない場合やシーズン後半まで免疫が維持されない場合、実際に流行する株が変異している場合もあり、感染・発症を完全に予防することはできない。しかし、脳症などの重篤な合併症を防ぐ効果が期待されるばかりでなく、解熱までの時間を短縮する効果も期待される。また、流行抑制という観点では、より多くの方が接種する必要があると考えられる。

A型罹患後の経過をみると、接種群が非接種群よりも解熱が早い傾向にあった。また、小中学生においては、二峰性発熱の頻度も接種群が低かった。学校や園においては、欠席しなければならない期間が重要であるが、登校登園再開は、概ね接種群の方が早く、ワクチンの効果と考えられた。

平成27年度~令和1年度の小中学生のA型に対するワクチン有効率が低かった。流行したA型亜型や、流行株とワクチン株との相違などの様々な要因が重なったことが考えられるが、その一つとして、令和1年度までは、毎年流行がみられ、ワクチンを接種しなくても、ある程度の免疫があり、接種群と非接種群との差が少なかったことも考えられる。これに対して令和4年度は、2年間インフルエンザの流行がなく、インフルエンザに接していなかったため、インフルエンザに対する免疫が低下していたと考えられ、ワクチン接種で免疫が強められた接種群と、免疫が弱い状態だった非接種群で免疫の差が大きくなり、有効率が向上したとも考えられる。

令和4年度に流行したインフルエンザはA型H3で、A型H1やB型はほとんどみられなかった。つまり、ワクチンを接種しなければ、A型H1やB型に対する免疫の弱い状態が続くこととなる。

令和5年5月8日に新型コロナ感染症が5類に移行され、感染対策が緩和された状況では、インフルエンザに対する免疫が弱いと、流行しやすくなるため、ワクチン接種が重要となる。